来春挙式する予定の息子から連絡があったのは秋のこと。挙式で新郎新婦の父親向けにモーニングコートの貸し出しがあり、予約が必要とのこと。「借りるよね?」と確認の内容でした。母の黒留袖があるので新郎の母である私は当日それを着ますが、モーニングコートはさすがにないよね…借りるしかないか、と考えていましたが、夫に相談すると、「…あるかもしれない」と驚きの一言が!
私はモーニングコートと聞くとお尻のあたりがバッタのような形をしていて(すみません、燕尾服と書くだけあって、燕の尾なんですね、あとから知りました)テレビの中で皇族の方が着ているイメージだったので、一般的な家庭で常に用意されているものではないイメージがありました。しかし、夫の亡き父のモーニングコートがあったのです。
夫のきょうだいは女性ばかりで男性は夫だけなので、義父亡き後、義父の着用していた衣装のほとんどは夫が引き取っています。義父はとてもおしゃれだったようで、オーダーメイドであつらえたであろうものもたくさん。きっと着た後もきちんとクリーニングに出したり、義母がお手入れしていたのでしょう。
とはいってもモーニングコートの出番はそれほど多くはなかったはず。主を失ってからはいつの間にか処分されたかもしれないと、夫も「もしかしたら」くらいのつもりで義母に聞いてみたようでした。
義母は夫から聞かれて、すぐに自宅内の思い当たるところを大捜索してくれた様子。翌日に義母からモーニングコートを受け取った夫の姿を見た時は、「普通の家にこれがあるんだ!」などと失礼極まりない言葉を発してしまいました(奥田家の皆様、大変申し訳ございませんでした)
義父のモーニングコートに被せられたクリーニングのビニールは所々破れて変色していましたが、幸いにも中身は虫食いも色褪せもなく無傷! 初めて手に取ってマジマジと見ましたが、燕の尾の上着に、縦縞模様のズボン、重厚感があり、格式の高さをうかがえます。
上着は肩幅も袖も裾もピッタリでした。次にズボンに足を通して裾を見ると、右と左で長さが若干違います。夫に聞くと、「親父は昔から左右の足の長さが違い、持っているズボンはすべて裾直ししていた」と。「洋服はほとんど○○というお店で買っていた、そこは(親父の)弟が勤めていた関係のお店で…」などなど、その後もズボンを履いたまま、夫から亡き義父の話をたくさん聞きました。義父は私が嫁ぐ前に亡くなっているので、私には義父との思い出はありません。しかし、普段は私の話の聞き役である夫が(というより一方的に私がしゃべるので)、珍しくよくしゃべるのです。
あまり亡き父の話を自分からする夫ではありませんが、以前何かの時に「親父が亡くなった時は、これからは聞く人がいなくなるな、かばってくれる人がいなくなるなって…」とその時に感じた本音を話してくれたことがありました。その言葉に、夫にとって義父がどれほどの存在だったのかということが垣間見えた気がしました。亡き父のモーニングコートとともに色々な思い出がよみがえったのでしょう。夫はとてもうれしそうでした。
一着のモーニングコートが、こんなにも穏やかで懐かしい思い出と楽しい会話を運んできてくれました。姿はなくても、義父は夫の中に生きているということを実感しました。そして、義父との思い出を夫が語ってくれることで、私も義父を近くに感じることができました。こんなにも素敵なモーニングコートを仕舞っておいてくれた義母にも感謝です。
『「相続」を「争族」「争続」じゃなく、「想族」「想続」にしたい』行政書士を目指した初心を思い出させてくれる大切なエピソードになりました。
もうすぐお直しに出していたものが出来上がって戻ってきます。上から下まで着揃えた夫の後ろ姿はきっと、義父そのもの。挙式当日よりも前に、義母に夫のモーニングコート姿を披露したいと思います。
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