(※写真と本文の内容とは関連ございません)
今、ニュースで報道されない日はないのではないかというほど深刻な社会問題になっている特殊詐欺。A子さんと見ていたニュースでも、特殊詐欺により多額の預貯金を騙し取られた高齢の男性の被害の実態が流れました。手口は本当に悪質かつ巧妙。被害に遭われたご本人の心情を思うと、心底怒りがわいてきます。「他人様のことをどう思っているんだろうね、許せんわ!」と思わずつぶやく私。隣のA子さんには伝わらないだろうなあと思っていると、なんとそのA子さん、私のつぶやきに続いてこんなことを仰ったのです。
「こーんなくだらんことに頭使うくらいなら、もっと世のため人のためになることに頭使わなかんわ!とろくさい!!」 (とろくさい、というのは尾張弁なのでしょうか、ばかばかしい、呆れてものが言えない、というニュアンスで使っています)
そう、A子さんは、特殊詐欺の犯人にモノ申しているのです。人を騙してお金を搾取する方法を考える知恵があるのであれば、もっと良いことにその頭を使え、世のため人のために知恵を絞れ、と。
実はA子さんは元々、こちらから問いかけや声掛けをすればお返事をするという控えめな方。ご自分から声をあげたり、感情を出されるような方ではありません。しかし、この時は違いました。隣で聞いた私は目が点…A子さんの方を見ると、その目は真剣、怒りの表情。認知症であることなどすっかり忘れてしまいそうな勢いです。
私はA子さんの言葉に感心すると同時に恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになりました。A子さんは認知症だから伝わらないだろうと勝手に決めつけていたからです。でも実際のA子さんは違いました。どこまでこのニュースの実態をご理解されたのかは分かりませんが、少なくとも「人を騙すこと」は悪いことで決してやってはいけない、騙す知恵があるのであれば人の役に立つことに使え、と仰ったのです。
長年看護職としてご高齢の方に接する機会をいただいてきましたが、その中で認知症と診断された方でも、相手の表情やしぐさを読み取る、感じ取るというところでは、こちらが驚くほど敏感で繊細な感性を保たれる方は多いと感じます。ケア中にふと考えごとをしてぼんやりしていると、「あんた、頑張りすぎちゃいかんよ!」と肩をもんでくださったり、マスク越しに小さくため息をつくと、「迷惑かけてごめんね」と謝られてこらたり。こちらが無意識にとっている行動で心の中を見透かされているように感じます。これはきっと人生において長い長い時間とたくさんの経験を積み重ねられてきたからこそのなせる技、たとえ認知症になったとしても失い切ることのない本能のようなものではないでしょうか。
仕事と家庭の両立や職場の人間関係で悩んだ時、人生の大先輩方を前にすると、「この方にも同じように悩んだ時があったのかな。それを乗り越えてきたんだな」と思い、「私なんてまだまだヒヨッコ!大丈夫、私にもできる!」と不思議なパワーをもらえる気がします。
A子さんの言葉に、人生の大先輩から学ぶことはたくさんあるのだとあらためて気づくことができました。
人間、歳をとらない人はいません。しかし、年齢の積み重ねと同時に、様々な出会いや経験も積み重なっていきます。
まだまだ若輩者の私ですが、いつかは誰かの人生の大先輩として何かを残したり伝えられるような存在になれることを目標にしたいと思います。
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