コラム
- 大切な人の、「その先」を想う
- <div>※写真の内容は本文とは関連しておりません</div><div><br></div>私が個人的にお世話になっている、今は施設に入所されている方がいます。ご高齢ですが、頭や体の不自由もなくまだまだお元気な方ですが、施設入所当時から、今は空き家になっているご自分のご自宅をずっと気にされていました。<div>元々大きなお屋敷で、配偶者様に先立たれ、お子様方も結婚し遠方に住み、長年おひとり暮らしをされていましたが、年もとったし、最近は物騒だから…と自ら施設を探し、現在にいたっています。</div><div>最近この方から、自宅の建物を取り壊し、更地にして、売りに出すよう、お付き合いのある不動産屋さんに頼んだとお話をうかがいました。もうこの先誰も住む予定がないから、とのこと、そして、庭木の手入れや、傷んだ建物の修繕、警備会社を入れての防犯など、空き家を維持するにも大変な費用がかかっているというお話でした。</div><div>その方がまだご自宅での生活をされていた頃を知っているので、私は少ししんみりしました。「慣れ親しんだおうちがなくなるのは寂しいね」そう声をかけると、その方は、「そうだね、でも、このままにしておいても、子供たちが困るでしょう? 自分が死んだあとに、子供たちに、「壊すのはしのびない」「申し訳ない」と思ってほしくないから」と、きっぱり。その表情に全くの寂しさはないとは感じませんでしたが、どこか、スッキリした表情で、穏やかな笑顔でした。</div><div>私は、この方のお子様方に近い年齢なので、この言葉が、とても心に響きました。</div><div>この空き家の登記簿上の所有者であるこの方に相続が開始した場合、相続人であるお子様方が相続することになります。この4月からは不動産相続登記が義務化されたため、必ず次の所有者を決める必要が出てきます。そうすると、相続して登記の名義変更までしたはいいけれど、住むこともないのに、この空き家の維持管理を継続して行わなければなりません。ましてやお子様方は、遠方にお住まいなので、維持管理がさらに困難なものになることは容易に想像できます。</div><div>この方は、ご自分の亡き後に、お子様方にこういった負担をかけたくないと、今回処分することを決めました。</div><div>さらに、実質的な負担だけではなく、「申し訳ない、しのびないと思わせたくない」とお気持ちの面での負担までも考慮されたのです。「子供たちには今の生活を安心して送ってほしいから」と、最後におっしゃいました。</div><div>お子様方も、最初はびっくりされていたものの、この方の強い意志を知って、承諾されたそうです。</div><div>今回のお話をうかがい、この方の選択や判断がどうか、ということではなく、この方が、大切なお子様方の「その先」を想って行動をされたんだということに、私はとても胸が熱くなりました。人は年齢を重ねるとともに、体力や気力の衰えを感じ、将来に対する不安も増していくものだと思います。この方もきっと例外ではない中で、ご自分とお子様の将来を想像し、最善だと思う方法を選ばれたのでしょう。人生の大先輩の大きな出来事をお聞かせいただき、私はとても光栄に思いました。</div><div>「終活」は、ご自身の納得、安心の将来や最期に備えるためのものです。しかし、側面の一つとして、「残されるご家族のため」でもあると私は考えます。大切なご家族の「その先」に寄り添った終活は、間違いなく残される側の道しるべになるのではないかと思います。</div>
- ~ラブレターを遺しましょう~
- <div>※写真はイメージです</div><div><br></div><div>遺言とは、生前のうちに、自分の亡き後に自分の残した財産について、誰に、何を、どのように、どれだけ引き継いでもらいたいかを意思表示したものです。</div><div>遺言は、法律で定められた事項について、遺言者が亡くなってはじめてその効果を発生させることがきます。</div><div>遺言は、被相続人(故人、遺言者)の一方的でお一人での意思表示であるため、残されたご家族やご親族等に与える影響はとても大きいものになります。そのため、遺言があったからといってこれを無限に、無条件に認めてしまうと、利害関係人に混乱をもたらすことがあり、これを防ぐために、民法は遺言に関する事項を定めています。この民法で定められた遺言事項を法定遺言事項といいます。</div><div>反対に、法定外事項といって、たとえ記載されていたとしても、法的に拘束力や強制力がない事項もあります。</div><div>法定外事項にあたるのが「付言事項(ふげんじこう)」と呼ばれるものです。</div><div>付言事項とは、遺言者がどのような思い・きっかけで遺言をしたのかという心情と、自分の亡き後もご家族ご親族一同に仲良く暮らしてほしいというご希望などを記載したものです。</div><div>具体的には、遺言の動機、葬式の方法、死後の献体、家業の発展、家族の幸福の願い、家族や兄弟姉妹間で争うことなく仲良くしてほしいという願い、家訓など継承してほしいことやその方法などです。</div><div>付言事項には法的な効果はありませんが、遺言者の「想い」を相続人に伝えることができます。</div><div>亡くなってその存在がこの世からなくなり、姿がなくなってもなお、故人様の「最後の声」として受け取ることができるのです。私事ですが、この付言事項のことを「最後のラブレター」とご説明しています。</div><div>以前、公正証書遺言の作成サポートのご依頼をお受けしました。その時に付言事項の記載を提案させていただいたところ、ぜひ残したいとご希望があり、遺言者様のこれまでの人生、ご家族との思い出、この先の願いなど、丁寧にお聞かせいただき、何回も話し合いを重ね、「最後のラブレター」が完成しました。迎えた公正証書遺言作成の日、遺言者様は公証人より読み上げられた遺言を何度も大きく頷きながら聞かれ、付言事項の読み上げの際には、それまで以上に穏やかな表情で目に涙をためていらっしゃいました。若輩者ながら、この方の人生最後の意思表示に自分が行政書士として関わらせていただくことができたということに、心からの感激と感謝の気持ちでいっぱいになりました。</div><div>法的効果のある遺言の本文を、側面から「想い」の部分として支える大きな役割となりうるのが付言です。</div><div>実際に相続が発生した時の状況や相続人の心情にもよりますが、遺言者の想いが相続人に伝われば、遺言者の意思を大切にしようという気持ちが一致し、結果的に円満円滑な相続になることを期待できるかもしれません。「最後のラブレター」にはそんな温かさが宿っています。</div><div>この付言事項、あくまでも「ラブレター」です。反対に、相続人がこれを読んで気分を害したり、反発を買うような内容や表現は、ぜひ避けるべきだといえます。</div><div>「遺言」や「法律」と聞くと、どこか敷居が高く、とっつきにくいというイメージを持たれる方もいらっしゃると思います。しかし、付言事項だけではなく、法定事項も含め、遺言は「故人様からご家族様へのメッセージ」です。</div><div>ぜひ、残されるご家族のお気持ちに寄り添った内容にすることをおすすめしたいと思います。</div>
- ~まずは「振り返りと想像」から~
- 令和6年1月28日に開催させていただいた座談会は、「その介護、その相続、まずははじめの一歩から」がテーマでした。<div>相続に関しては、「その相続、相続人の私ができること、できないこと」ということで、途中〇×クイズもやらせていただき、皆様真剣に考えてくださいました。</div><div>遺産分割協議は、相続が発生した後に残された財産の分配の方法を相続人が話し合って決めるものですが、故人様自身が、生前のうちにご自分の財産の行く末を決めておく、託しておくのが、「遺言」です。故人様の生前の最終の意思表示を「遺言」といい、それを書面に落とし込んだものを「遺言書」といいます。</div><div>法的に有効な遺言書があれば、故人様が亡くなって初めてその効力が発生します。その内容に、相続人が納得し、疑義も出されなければ、その内容通りに財産の分配がされ、晴れて残された財産の次の持ち主が決まるという流れになります。</div><div>つまり、相続人全員による遺産分割協議が必要なくなるので、様々ないきさつがあって(例えば、夫婦間にお子様がいない、相続人同士の仲が良くない、連絡が取れない相続人がいる、相続人の中に未成年者がいるなど)、遺産分割協議をしようにも、相続人全員が集まることが難しい、話し合いを持つことが難しい、法律的な問題が生じる、といった事情が相続発生後に生じる可能性があるのであれば、ぜひ遺言書を残されることをおすすめしています。</div><div>しかし、いきなり「遺言書」というと、なんだかハードルが高い、躊躇してしまう、という方も多いのではないでしょうか。残す、書くのはいいけど、何から始めたらいいのだろう?と迷ってしまう…</div><div>そんな方にまずしていただきたいことがあります。<br></div><div>それは「振り返りと想像」です。<br></div><div>まずは「ご自分の情報整理」をしてみるということです。<br></div><div>「ご自分の過去を振り返る」 今までに、どんなご縁や出会いがありましたか…どんな財産を築いてきましたか…</div><div>「ご自分の現在に向き合ってみる」 ご家族関係はいかがですか…お身体の具合はいかがですか…今どこに、どれくらいの価値の財産がありますか…</div><div>次に、「ご自分の将来を想像してみる」ことをしてみてください。</div><div>ご自分の望む将来や老後、最期はどんなものですか…誰に、何をお願いしたいですか、託したいですか…</div><div>そして、それをぜひ書き出してみていただきたいのですが、その時に活用いただきたいのが、「エンディングノート」と呼ばれるものです。</div><div>今は書店や文房具店で、終活を取り上げたコーナーも多く見られるようになりました。</div><div>その中で、呼び方は違っても、ご自分の人生の振り返りの情報やこの先のご希望や意思を書き出せるような書籍やノートを取り扱っているお店も増えています。</div><div>私は、遺言書作成のご相談をいただくと、まずはこのエンディングノートを書いていただくようにお願いしています。</div><div>ご自分の生い立ちや、家族関係、親族関係、といった情報は、「相続人の特定」につながりますし、財産の状況や状態などの情報は、「相続財産の把握」につながります。この二つは、遺言書作成時には欠かせない情報になりますが、もう一つ、もし遺言書の作成・完成まで待たずにご本人が亡くなられた場合にも、残されたご家族が相続手続きを進めるにあたって、とても役に立つ情報となります。</div><div>ただ、このエンディングノート自体には、法的な効力はありません。遺言書と違い、相続人を法的に左右するものではないことに、注意が必要です。</div><div>しかし、「終活」という言葉を意識した時は、まずは「ご自分の今までの人生を振り返り、この先の人生を想像してみる」 これが、一番最初に気軽にできるはじめの一歩になるのではないかと考えます。</div><div><br></div><div>まだまだ寒い日が続きます。おうち時間が長くなる今この季節に、ぜひ「はじめの一歩」を踏み出してみませんか。</div><div><br></div><div><br></div>
- ~残される家族を大切に思えばこそ~
- <div>遺言を残すことの必要性をお話させていただく機会があると、時々こんなことをお話してくださる方がいらっしゃいます。</div><div><br></div><div>「うちは子供たちも孫も仲が良いから、もめることはないから大丈夫!」</div><div>「一緒に住んでる長男にすべて任せるって言ってあるから大丈夫!」</div><div><br></div><div>「相続」は時に、「争続」や「争族」と例えられます。しかし、これを見て、なんでもめるの?争うの?と不思議に思われる方もいらっしゃると思います。</div><div>故人様亡き後に、もめる、争いになるタイミングや原因は、いくつか潜んでいます。故人様の残された財産のうち、誰が、何を、どれだけ引き継ぐのか、これを決めていく途中で、相続人同士の意見や意向が分かれ、気が付いたら争いごとになってしまっていた、顔を見るのも、話すのもしんどい関係になってしまった、残念ですが、現実として相続ではこんな残念で悲しいことも起こりえます。</div><div><br></div><div>相続人が、何をどれだけもらうか、引き継ぐか、互いに気になる、気にするのは、当然です。故人様亡き後も、相続人の方の生活や人生は、まだまだ続きます。</div><div>お子様が小さい、介護が必要な親族と同居している、などのご事情があれば、特に経済的な余裕が少しでも欲しいと思うのが普通ですし、何よりも、相続人に認められている「相続する権利」は誰にも侵すことはできません。<br></div><div>(相続欠格や廃除等の法的なものは除く)</div><div><br></div><div>どれだけご自分から見て、「うちの家族なら大丈夫!」「子供たち同士でもめるなんてないだろう」と思っていても、実際に相続が発生した時点の相続人のそれぞれの生活の状況や考え方等は、未知数です。</div><div>残されるご家族にとっては、舵取りをしてくれていた故人様が亡くなることで、気持ちがバラバラになってしまう、路頭に迷ってしまうということもあるかもしれません。<br></div><div>また、生前に「自分に何かあったらお前に任せると、(故人様の)生前に言われていたから」と言っても、それに納得できない相続人が出てくることもあるかもしれません。</div><div><br></div><div>有効な遺言書は、残されたご家族を守る、道しるべになります。</div><div><br></div><div>法的に有効であることはもちろん、亡き後に実現される為にも残されるご家族の人生や生活を十分に考えた内容にすること、これが、遺言書を作ることの意義であり、必要なことです。</div>