コラム
- 「終活」って何すること? ~その② ご自分の葬儀に希望はありますか?~
- ※写真は、本文の内容とは関連ございません。<div><br></div><div>今回は、私がご紹介したい「4つの終活」のうちの2つ目のお話です。</div><div><br></div><div>前回は、ご自分の亡き後の相続手続きのお話でしたが、私の経験上、故人様亡き直後に相続人の間ですぐに「相続の具体的な話」が出ることはあまりないように感じます。というのも、人が亡くなると、まずは「葬儀はどうするのか」という話になり、葬儀が終わってからは、関係機関に故人様死亡の事実を伝え、各種手続きをする必要があるからです。</div><div>病院や施設で亡くなった場合、ご家族の心情に配慮しながらもできるだけ早いご遺体の引き受けをお願いされますし、ご家族のもとに戻られたご遺体を次に安置する場所の手配が必要です。その後は一般的に通夜、葬儀、火葬と続き、初七日や49日法要など、それと並行して、関係機関の手続きと、ご家族にとっては体力も気力も必要な出来事が一気に押し寄せます。ですので、相続手続きの前に、こういった「亡き後の手続きに関する事務」を先に行う必要が出てきます。(以下、ここでは死後事務手続きといいます)</div><div>死後事務手続きは大きく3つに分けられます。</div><div>1つ目は、「葬儀に関すること」具体的には、ご遺体の引き受け、搬送、安置(仮安置も含む)、亡くなったことを親族や関係者に連絡する。葬儀や火葬の手配、費用のお支払い。</div><div>2つ目は、「お墓に関すること」具体的には、遺骨の引き受け、搬送、安置(仮安置も含む)、納骨や法要の手配、費用のお支払い。</div><div>3つ目は、「行政手続き、その他」具体的には、市区町村での手続き、年金手続き、ライフラインの停止や支払いの変更、病院や施設の諸費用のお支払い、家具や遺品の処分等。</div><div>当然ですが、故人様はすでに亡くなられているので、ご自身の死後事務を自分で行うことはできません。親族や家族が担うことになりますが、故人様が生前に「自身の死後事務に対しての備え」をしておくと、担う側にとって大変スムーズなことが出てきます。</div><div>たとえば、葬儀について。冠婚葬祭会社さんの互助会に入会し、葬儀や法要のプランについて希望を伝えておく、積み立てをして葬儀代を確保しておく、遺影となる写真を撮影しておく、自分が亡くなった時に連絡してほしい、伝えてほしい人をリスト化しておく、菩提寺があれば亡き後の連絡方法や葬儀や法要について確認しておく、など。</div><div>次に、お墓(納骨)について。遺骨ついての希望、納骨方法やお墓の継承(状況によって墓じまいの検討)、菩提寺との関係についての希望、など。</div><div>最後に、行政手続き、その他について。返却の必要な書類(健康保険証、介護保険証、障害福祉に関する手帳、各種助成関係など)の保管場所を分かるようにしておく、亡き後に相続人が支給が受けられるものについて調べておく(生命保険や年金など)、ライフラインの会社や引き落としの口座がどれかを分かるようにしておく、など。</div><div>実際に死後事務を担った方のお話を伺うと、「葬儀の際にどのような葬儀の形態にするか値段の相場も分からないし、予算も含めて、選択が難しかった」「亡くなったことをどこまでの関係性があった方に連絡したらいいのか迷った」「手続きをしようにも必要な書類などが見つからなくて困った」など大小様々な葛藤や問題を経験されたという方も多くいらっしゃいます。大切なご家族が亡くなる、という出来事は非日常であり、精神的・心理的な負担がある上に、次々とやらなければならないこと、選択しなければならないことが押し寄せ、「悲しんでいる時間もないほどだった」というお言葉も聞かれます。そんな中で、故人様が生前に自分の死後事務について、ご家族に希望をお伝えしたり、具体的な選択や手続きを済ませていただくことによって、残されたご家族の負担は少なからず軽減されると考えます。</div><div>ご自身の「死後事務」について、担ってくれるご家族やご親族がいないケースの場合、専門家などと「死後事務委任契約」を結ぶことによって必要な事務をお願いすることも可能です。担ってくださるご家族やご親族がいる方の場合、「エンディングノート」を使って、希望を伝えたり、必要なものの在処や連絡先等を記しておくことができます。</div><div><br></div><div>「終活」というと「遺言」が代表格と言われますが、人が亡くなると葬儀や火葬、納骨など、ご家族やご親族にとってはすぐにやるべきこと、やらなければならないことがあります。葬儀をはじめ死後事務は、故人様とのお別れに対するお気持ちの部分でも大切な役割があります。ご自身の人生の幕をどのように閉じたいか、まずはイメージしてみるところからはじめてみませんか。</div><div><br></div><div>次回は3つ目、「命の最期に受ける医療について」のお話になります。</div>
- 「終活」って何をすること? ~その① ご自分の相続手続きに備える~
- <div>※写真の内容は本文とは関連ございません。</div><div><br></div>突然ですが、「終活」というと、何をどうする、というイメージがありますか?<div>最近では「終活」という言葉も聞き慣れた言葉になってきました。私は終活に関する座談会や講座をやらせていただく際に実際に「あなたにとって「終活」というと何をするイメージですか」と何人かの方にお聞きします。</div><div>「生きているうちに断捨離(身の回りの整頓など)をすること!」「自分のお葬式の予約をしておくこと!」などなど、それぞれの「終活」を教えてくださいます。</div><div>私見ですが、終活というと、「自分が死んだあとに家族が困らないように何かしらをしておくこと」というイメージをお持ちの方が多いように感じます。もちろん、これも必要な「終活」に当たると思います。しかし、終活というのは段階を踏んだ様々な「備え」を指します。特に私がご紹介したい「終活」には4段階あります。</div><div><br></div><div>分かりやすく説明するために、時間を逆にしてご説明していきます。今回は1つ目のご紹介です。</div><div><br></div><div>1つ目は、「ご自分の亡き後の相続手続き」に対する備えです。</div><div><br></div><div>人が亡くなると、その瞬間に「相続」が発生します。相続というのは、故人様の残された財産(プラス、マイナス、全ての財産を指します(遺産))のうち、相続人間の話し合いにより、誰が、何を、引き継ぐのか、次の持ち主を決めることです。これは「遺産分割協議」と呼ばれるものですが、この遺産分割協議には実は隠れた高いハードルもあります。まずは、「相続人全員での協議」が必要になること。相続人が欠け状態で行われた遺産分割協議は無効になるため、まずは相続人が誰にあたるのか調べる必要があります。普段から家族・親族間で連絡を取り合うような関係であればさほど難しいことではありませんが、連絡のとれない相続人がいたり、家族・親族間が不仲である、故人様に前婚歴がありお子様がいらっしゃる、となると、この相続人を特定する調査、作業は困難なものになります。「そもそも相続人ってどうやって調べるの?」と疑問に思われる方もいらっしゃると思いますが、故人様の出生から死亡時までの連続した戸籍謄本で婚姻歴や縁組歴等を調べ、法定相続人にあたる方の有無、居所などを調べていきます。その方に婚姻歴がなく、お子様もいないとなると相続順位、相続関係が複雑になり、相続人の特定作業はとても時間も手間もかかってきます。そしてもう一つ、この相続人の中に、「意思能力・判断能力がない方、ないとされる方」がいる場合も、遺産分割協議は無効になります。そもそも遺産分割協議は「自分の意思や希望を他の相続人に伝えたり、他の相続人の意思や希望を聞いたりして、遺産について話し合うこと」ですので、そこには自分が相続人であり協議をするという自覚であったり、最終的に協議がまとまった場合は、協議書に署名・捺印も必要になります。</div><div>ですので、たとえば頭の不自由(主に認知症)があり意思能力・判断能力ない状態の方や、法律上そのように定義されている未成年者等は、遺産分割協議には参加できず、法的な代理人を立てる必要が出てきます。</div><div>高いハードルの2つ目は、財産の内容が明らかでない場合です。先ほども述べましたが、故人様の遺産は、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産も含まれます。マイナス、つまり事情があって生前にどなたかからお金を借りていて返済が終わっていないケースや、車や家をローンで購入し、月々返済しているケース、などですが、一番心配されるのが、ご家族が知らないところで故人様がマイナスの財産を持っていた、作っていた、というケースです。家族がそれを把握できないまま遺産分割協議・相続手続きを済ませたはいいが、すでに相続放棄ができなくなってから故人様に多額の負債があったことが発覚した、となると、相続人が不測の負債を抱えてしまうことになってしまうこともあります。</div><div>以上の高いハードルのために、相続手続きが進まず、故人様の残された財産の次の持ち主が決まらない、となると、様々な都合の悪いことが出てきますし、時間の経過は、財産の価値の変化、相続関係の新たな変化までもたらす可能性もあります。また、遺産を巡って、家族・親族関係がこじれ泥沼化することで「相続」は「争族・争続」とも呼ばれます。</div><div><br></div><div>さて、話の冒頭に戻りますが、ではご自分の亡き後の相続手続で、家族・親族間の無用な争いごとを防ぎ、また何よりも、ご自分の残した財産をご自分の託したい方に託すことができる備え、「終活」の一つが、「遺言を残す」ことです。</div><div>遺言の種類や作成時の注意点など詳細はここでは触れませんが(コラム「遺言作成」を併せて参考にしていただければ幸いです)、法的に有効な遺言があれば、原則として遺産分割協議を経ることなく、遺言通りに財産の分配がされます。</div><div>相続人全員による話し合いが必要なければ(遺産分割協議が必要なければ)、相続手続きに関して時間や手間は随分省くことができると考えます。</div><div>「遺言」のお話をさせていただくと、「自分には遺言を書くような財産なんてないから」とか、「なんだか堅苦しい」「大変そう」といった感想が聞かれます。しかし、これは終活全般に言えることですが、遺言作成は、ご自分の築いてきた人生や財産と向き合い、次の担い手に託すという大変重要な役割を持っています。ご自分の大切な思い入れのある財産を確実に次世代に繋ぎ、また、残されたご家族の無用な争いごとを避けるためにも、終活の代表格である「遺言作成」をおすすめしたいと思います。</div><div><br></div><div>次回は2つ目、「死後事務委任」についてのお話になります。</div>
- 家族を守るためにも
- ※写真と本文の内容とは関係ございません。<div><br></div><div>私はこれまで看護職として働いてきましたが、その中で高齢者施設で働くことが期間としては一番長いものでした。</div><div>さて、これはあくまでも私の経験上のお話で大変恐縮なのですが、それまでの生活スタイル・生活の場から離れ、新しく施設に入所される入所者様のほとんどは、環境の変化やご自分を取り巻く人間関係の変化(同じ入所者様やスタッフなど)にすぐに馴染むことが難しく、何らかの変化や不調を訴えられたり、言動になって表れる方が多くいらっしゃるように感じます。たとえば、毎日あった排便が止まってしまい便秘がちになった、夜眠れない、食欲がわかない、などなど、いわゆる急激な環境の変化が精神的・心理的ストレスになり、身体の不調となって表れる方がとても多いです。また、身体だけではなく、物忘れや時間の感覚のズレ、ご自分のいる場所、入所するまでの経過が分からなくなり、徘徊や昼夜逆転、抑うつや怒りっぽくなる、など、一時的なものもありますが、頭の不自由、いわゆる認知症様の症状が見られるようになる方もいらっしゃいます。</div><div>施設によるとは思いますが、私が今までにスタッフとしてお世話になったところでは、新規の入所者様のご家族やご関係者に、「入所して1~2か月は急激な体調の変化も十分に起こりえます」とご説明していました。実際に入所してから数日や数週間で脳血管疾患、心血管疾患を起こし、救急搬送や緊急入院に至る方も珍しくありません。とくにこれらの疾患の場合、急激に命の危機に瀕した状態に陥ることが多く、医師から、「どこまでの治療を求めますか」とご家族に説明がされるケースにも何度か立ち会いました。</div><div>ご家族としては、施設が決まり手続きなどを経て荷物の搬入なども終わり、これでご本人の身の安全や生活の場は確保できた、そして自分たちも少し落ち着けるだろう、と思っていた矢先に、そのご本人の容態が急変し、命の瀬戸際に立たされている…この厳しい現実をすぐに受け入れることは到底難しいのではないでしょうか。さらにその上に、どこまでの治療をするか、いわゆる、延命措置と呼ばれる措置を行うかどうか、これを決めてくださいと言われたとすると、かなりの心理的ご負担が生じることになります。ご家族がその時に延命措置をすると決めたとして、しないと決めたとしても、その後にご本人にとってこれで良かったのかと長く思い悩まれる姿もまた多く見てきました。「(入所の時に)こういうこともあり得ると聞いていたのに…その時は深く考えていなかったんですよね、まさか現実になるなんて…」と苦しい胸の内を打ち明けてくださるご家族もいらっしゃいました。</div><div>想像してみていただきたいと思います。</div><div>もしこんな「まさか」の事態に備えて、ご本人自身が、「自分の命の瀬戸際にどこまでのどんな治療を望むのか」をきちんと意思表示し、ご家族にあらかじめ伝えられていたとしたらどうでしょうか。延命措置を受けるか受けないかというような場合、ほとんどのケースで、すでにご本人が自身ではどうしたいと意思表示ができないような状況・状態におかれていることがほとんどだと思います。そんなご本人からすでに先に、「自分が万が一そんな状態になったら)ああしたい」「こうしたい」「ああしてほしい」「こうしてほしい」と聞けていたのであれば、ご家族は「本人の望んでいた通りにしてあげよう」と思えるのではないでしょうか。またそう思えることで、ご家族自身も究極の選択や判断を自ら迫れることなく行うことができ、心理的ご負担が少しでも軽くなるのではないでしょうか。</div><div>「延命措置」と言われても、どことなく自分事としてはイメージできない、したくない、という方も多いのではないでしょうか。 しかし、人がいつ命の終わりを迎えるか、誰にも分からないことです。年齢に関係なく、不慮の事故などで本当にある日突然に命の瀬戸際に立たされることも考えられます。そういった中で私たちは生活しています。<br></div><div>「自分らしく最期を迎える」ためにも、命の瀬戸際に立たされた場合に、どこまでのどんな治療を望むのか、ぜひイメージしてみる機会、きっかけを作ってみてください。</div><div>子供が結婚した、孫が生まれた、大切な方が亡くなった、などなどの人生における折に触れて「自分事」として考えてみてください。</div><div>イメージは、意思や望みを生み出します。意思や望みがあるとしたならば、声に出して大切な方に伝えてみてください、そしてできる限り形にしてください。これは今回のような命の瀬戸際における医療のみならず、全ての「終活」のスタートになると私は考えています。</div><div><br></div><div>皆様の「イメージ」と「意思表示」は、いつか来るかもしれない万が一の時の備えとなり、大切なご家族を守る道しるべとなります。</div><div>どうか皆様の想いが長く確実に大切な人に伝わりますように。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div>
- 不動産相続登記義務化に伴って。
- <div>※写真は本文の内容とは関連ございません。</div><div><br></div>私の両親は70代後半。まだまだ元気でいてくれるのですが、私が終活を専門としていることもあり、無言(または有言?)の圧力からか、最近は自分たちの将来について考えることが増えたようです。<div>先日のこと。父から父の所有している土地について、本当に自分の名義になっているか心配だと相談がありました。</div><div>父は男3人兄弟で、父の父(以下、祖父)に相続が発生したのを機に、土地を相続しています。ただ、父は次男ということもあり、祖父と同居していた長男夫婦が相続に関する手続きはきっとしてくれたのだろうが、昔のことで覚えていない、とのこと。今年度から不動産の相続登記が義務化されたとのニュースを見て、今耕作している畑が、間違いなく自分のものになっているのか不安になったようです。私は父からの相談を受け、早速法務局の支局で、父の不動産について全部事項証明(不動産登記簿謄本)を取得しました。父の心配は杞憂に終わり、祖父が亡くなった以来自分のものとして使用、管理してきた土地は全て父の名義になっていました。念のため、自宅の宅地と建物についても調べましたが、しっかりと父名義でした。父はもちろんですが、母も私も一安心しました。</div><div>父と話をして感じたのは、父の世代には、「長男が家督を継ぐものであり、親の残した財産は長男が相続するもの」という考え方が少なくともどこかしらにあったのではないか、ということです。特に父の生まれ育った地域は田園風景広がるのどかなところ。今では時代の変化とともに少しずつ変わってきましたが、町内や地区の行事、風習、慣習など古くからのしきたりのようなものが根付いています。そんな中で、個々人や親族内における先祖代々のならわしも然りなのではないでしょうか。この目まぐるしく変わる世の中において、20年前、30年前と今とでは、確実に様々なことが変わってきています。少子化に伴う核家族化、医療の発展に伴う平均寿命の延びなどは、故人様亡き後の相続とも密接に関わってくるのではないかと考えます。</div><div>少し話はズレましたが、とりあえず、父の不安の一つだった不動産の登記と所有については、今のところ名目ともに大丈夫ということが分かりました。</div><div>先ほども書いたように、今年度から不動産相続登記が義務化されたことに伴い、「何年か前に相続したはずの土地が自分の名義になっているかがはっきりしない」というご相談をいただくようになりました。</div><div>このような場合には、ぜひ該当不動産の全部事項証明を取得してみてください。不動産の所在や権利関係(所有者や抵当権の有無など)が記載されていますので、ご自分の名義になっているか調べることができます。全部事項証明は、お近くの法務局の窓口で取得することができます(不動産所在地の管轄の法務局以外でも可能です)また、法務局ホームページよりオンライン申請も可能です。また、この全部事項証明はその不動産に権利関係のない第三者でも取得することがきます。</div><div>登記に関する業務は司法書士の業務となり、行政書士が登記申請書類等を作成したり代理で申請することはできません。しかし、行政書士は連携する司法書士をご紹介したりなど、調査や手続きをよりスムーズに行うための橋渡しをすることができます。ぜひお役立てください。</div>
- 大切な人の、「その先」を想う
- <div>※写真の内容は本文とは関連しておりません</div><div><br></div>私が個人的にお世話になっている、今は施設に入所されている方がいます。ご高齢ですが、頭や体の不自由もなくまだまだお元気な方ですが、施設入所当時から、今は空き家になっているご自分のご自宅をずっと気にされていました。<div>元々大きなお屋敷で、配偶者様に先立たれ、お子様方も結婚し遠方に住み、長年おひとり暮らしをされていましたが、年もとったし、最近は物騒だから…と自ら施設を探し、現在にいたっています。</div><div>最近この方から、自宅の建物を取り壊し、更地にして、売りに出すよう、お付き合いのある不動産屋さんに頼んだとお話をうかがいました。もうこの先誰も住む予定がないから、とのこと、そして、庭木の手入れや、傷んだ建物の修繕、警備会社を入れての防犯など、空き家を維持するにも大変な費用がかかっているというお話でした。</div><div>その方がまだご自宅での生活をされていた頃を知っているので、私は少ししんみりしました。「慣れ親しんだおうちがなくなるのは寂しいね」そう声をかけると、その方は、「そうだね、でも、このままにしておいても、子供たちが困るでしょう? 自分が死んだあとに、子供たちに、「壊すのはしのびない」「申し訳ない」と思ってほしくないから」と、きっぱり。その表情に全くの寂しさはないとは感じませんでしたが、どこか、スッキリした表情で、穏やかな笑顔でした。</div><div>私は、この方のお子様方に近い年齢なので、この言葉が、とても心に響きました。</div><div>この空き家の登記簿上の所有者であるこの方に相続が開始した場合、相続人であるお子様方が相続することになります。この4月からは不動産相続登記が義務化されたため、必ず次の所有者を決める必要が出てきます。そうすると、相続して登記の名義変更までしたはいいけれど、住むこともないのに、この空き家の維持管理を継続して行わなければなりません。ましてやお子様方は、遠方にお住まいなので、維持管理がさらに困難なものになることは容易に想像できます。</div><div>この方は、ご自分の亡き後に、お子様方にこういった負担をかけたくないと、今回処分することを決めました。</div><div>さらに、実質的な負担だけではなく、「申し訳ない、しのびないと思わせたくない」とお気持ちの面での負担までも考慮されたのです。「子供たちには今の生活を安心して送ってほしいから」と、最後におっしゃいました。</div><div>お子様方も、最初はびっくりされていたものの、この方の強い意志を知って、承諾されたそうです。</div><div>今回のお話をうかがい、この方の選択や判断がどうか、ということではなく、この方が、大切なお子様方の「その先」を想って行動をされたんだということに、私はとても胸が熱くなりました。人は年齢を重ねるとともに、体力や気力の衰えを感じ、将来に対する不安も増していくものだと思います。この方もきっと例外ではない中で、ご自分とお子様の将来を想像し、最善だと思う方法を選ばれたのでしょう。人生の大先輩の大きな出来事をお聞かせいただき、私はとても光栄に思いました。</div><div>「終活」は、ご自身の納得、安心の将来や最期に備えるためのものです。しかし、側面の一つとして、「残されるご家族のため」でもあると私は考えます。大切なご家族の「その先」に寄り添った終活は、間違いなく残される側の道しるべになるのではないかと思います。</div>
- ~介護が必要な状態になってから、に備える~ Part ③
- 前2回に続き、「介護が必要な状態になってから、に備える」<div>3回目、最終回の今日は、「任意後見契約」をテーマに書かせていただきます。</div> <div><br></div><div>2回目でお話した「法定後見」は、ご本人に「頭の不自由」が起こってからその財産や権利を守るために申立てすることができる制度となっていることをご説明しました。</div><div>では、ご本人の判断能力が残っているうちに、ご本人の意思で、「将来の財産や権利を誰かに託す」ことができる制度はあるでしょうか。ご紹介したいのが、「任意後見契約」です。</div><div>同じ「後見」でも、この任意後見契約制度は、法定後見制度とは仕組みが異なるものになります。</div><div>一番の大きな違いは、「契約」であるということです。契約、つまり、当事者の間で、「この人と結びたい」という双方の意思表示の合致があれば結ぶことができます。この「任意後見契約」に関しては、たとえばAさんが、「もしも将来万が一、自分に頭の不自由が起こったら、Bさんに面倒をみてもらいたい」という気持ちがあり、Bさんにも、「Aさんに将来万が一があったら、私が面倒を見てあげたい」という気持ちがあれば、結ぶことがきでます。</div><div>流れとしては、</div><div>①Aさん(任意後見委任者)とBさん(任意後見受任者)とで、任意後見契約を公証役場で公証人のもと公正証書で締結する </div><div>②Aさんに頭の不自由が起こったら、Bさんが家庭裁判所に後見監督人付与の申し立てをする </div><div>③Bさんは任意後見受任者から後見人になり、後見監督人の監督のもとAさんの後見業務を行う</div><div>この任意後見契約は、同時に「委任契約」も締結しておくことをおすすめします。任意後見契約は、Aさんに頭の不自由が起きてから初めてBさんが申立てをし、後見人としての立場を与えられるものですが、頭の不自由がなくとも、ご年齢とともにAさんに体の不自由が起これば、少なからず何らかのサポートが必要になります。その時、Aさんにはまだ判断能力がある状態なので、Aさんを差し置いてAさんの財産の処分や法律行為までをBさんが行うことはできませんが、たとえば、介護申請や入院や入所の手続き、家賃や光熱費の支払いなどをAさんの代わりにBさんが行うことができるというものです。</div><div>どちらの契約も、AさんがBさんに対し、「私に万が一があったら、Bさんにこういうことをお願いしたい、託したい」という内容を「代理権目録」としてあげておく必要があります。</div><div>この契約の一番のメリットは、「ご本人のお気持ちや意思、タイミングを大切にできる」ことです。たとえば、ご高齢のご本人を案じ、ご家族など身近な方が、「心配だから、財産を預かるよ」と言っても、ご本人は「はい、お願いします」と簡単には言えないことも多いものです。やはり、通帳や印鑑、お財布など大切なものは、できる限りは自分の手元に置いておきたい、自分で管理したいと思うものです。しかし、体の不自由や頭の不自由をきっかけに、または、不自由がなくても、年齢的な衰えから自分で管理することに対し不安や心配を抱えるケースもありえます。「最近うっかり物忘れが多くなって、大切な物の在処を忘れてしまいそうで…」「言葉巧みにものを売りつけられそうになった」など、「これはもう、誰かにお願いしないと危ないな、怖いな」とご自分のタイミング、意思で、信頼できる相手に託すことができるのであれば、ご本人の納得、安心につながるものだと思います。</div><div>また託された側も、「自分はきちんとした契約のもとで動いている」という安心感と責任感をもって、ご本人のために必要なサポートをすることができます。</div><div>他に、法定後見との違いでメリットとして、</div><div>契約なので、報酬については双方の協議の上あらかじめ決めておくことができる(親族間のケースの場合、無報酬とすることがほとんどです)</div><div>段階を踏むことができるので、準備期間を設けやすく、後見人として業務ができるまでの手続きがスムーズになる</div><div>などが挙げられます。</div><div>反対にデメリットとして、</div><div>第三者の目が届きにくい(委任契約のうちは、家庭裁判所も後見監督人も入らないため、ご本人が窃盗や横領などの犯罪に遭うケースが起こりうる)</div><div>実際に頭の不自由が起きても、任意後見受任者が後見監督人の申し立てをしないことで、ご本人の財産や生活が守られにくくなる(後見監督人がつくことへの不信感、申し立ての煩わしさなど)</div><div>などがあげられます。</div><div><br></div><div>近年、核家族化、少子化とともに、身寄りのない高齢者の財産や生活をどう守るかが、社会的課題になっています。</div><div>介護を必要とせずに人生の最期を迎えることは一番の理想であり、どなたもが望むことではあります。</div><div>しかし、もしも将来万が一、介護が必要な状態になったとしたら、誰に何を託したいか、誰に何をお願いしたいか、どんな生活を望むか、そのために、元気な今のうちに何ができるか、どんな備えが必要か、ぜひ「イメージすること」「想像すること」をしてみていただきたいです。</div><div><br></div><div>今回ご紹介した後見に関する制度も、最近では耳にするようになってきましたが、その具体的な仕組みまではまだまだ周知が追い付いていないというのが、私の個人的な感想です。<br></div><div>3回にあたってご説明してきましたが、各制度についてまだまだお話したいことがたくさんあります。</div><div>ぜひこの機会に、「後見」について知っていただけたらと思います。</div><div>また、適切な指導や管理のもと行政書士が後見について承る、「コスモス後見サポートセンター」という組織もございます。コスモスの活動を通して、行政書士の後見に関わることの意義もあわせて知っていただくきっかけにしていただけたらと思います。</div><div><a href="https://www.cosmos-sc.or.jp/">公益社団法人コスモス成年後見サポートセンター (cosmos-sc.or.jp)</a> ☆ぜひご覧ください☆</div><div><br></div><div><br></div>
- ~介護が必要な状態になってから、に備える~ Part ②
- 前回に続き、「介護が必要な状態になってから、に備える」<div>2回目の今日は、「法定後見の仕組み」をテーマに書かせていただきます。</div><div><br></div><div>大切なご家族が認知症になり介護が必要な状態になった場合、現実的なお話としてやはりお金がかかります。</div><div>ご本人に必要な治療や介護を受けてもらうためには、医療や介護に関する制度をフル活用したとしても経済的な自己負担は発生しますし、これまで通りの「生活費」もかかります。そして支えるご家族にも生活や人生があり、やはりお金は必要です。しかし、もしご家族が、ご本人のためにご本人の財産を使おうとした場合でも、ご家族だからといって無限に、無条件に使えるわけではありません。具体的に、たとえばご家族が、「本人名義の通帳に定期預金があり、それを解約して施設入所のために使いたい」「本人が施設に入所することになり、自宅が空き家になり今後住むあてもないので、売却して介護資金にしたい」と希望しているとしても、銀行さんや不動産会社さんは「はい分かりました、やりましょう」とはなりません。なぜならば、いくらご本人が認知症で判断能力がないとしても、ご本人の財産を本人以外の人が勝手に処分することはできず、むしろしっかりと保全される必要が高まるからです。ご本人の財産と権利を守るために、あえてとられる措置なのです。</div><div>また、ご本人の判断能力が低下している場合、印鑑や通帳、身分証などをご自分で保管していることによって、悪徳商法などの被害に遭うことも考えられます。ご本人の財産を預かり管理することによってこうしたトラブルを防ぐことが望ましいのですが、一方的にご本人より取り上げる形になってしまうと、ご家族であっても関係がぎくしゃくすることもありえます。</div><div>ご家族からすると「本人のために必要なことなのに、やってあげられない」ことが出てきます。 こうなると時に死活問題になります。</div><div>こんな時に利用できる制度としてご紹介するのが、「法定後見制度」です。</div><div>法定後見制度は、判断能力の低下によって、ご本人自身がご自分の生活や財産を守るための法律行為や財産管理をすることが困難になった場合に、家庭裁判所によって選任された適切な援助者がご本人に代わって法律行為や財産管理など必要な支援をする仕組みです。</div><div>おおまかな流れとしては、</div><div>①ご本人に判断能力の低下、保護の必要が生じる→②家庭裁判所に申立てをする(※1)→③家庭裁判所による調査や意医師による鑑定が行われる→④家庭裁判所により後見等の(※2)開始の審判がなされ、成年後見人等が選任される(※3)→⑤審判の確定と内容の登記がされる→⑤成年後見後見人等によりご本人のために後見事務がなされる(※4)→⑥後見終了(※5)</div><div>となります。</div><div>⑤の後見事務により、成年後見人等は、家庭裁判所で指導を受けたとおり、ご本人の財産を預かり、収入や支出を記録し、生活の様子に気を配ります。定期的な事務報告等の義務も課せられています。法的に決められた「ご本人を適切に支援する人」が就くことで、ご本人の生活や財産が守られ、ご家族にとっても安心です。</div><div><br></div><div>ただ、この制度、いくつか事前に必ず知っておくべき内容もあります。</div><div>(※1)…申立てができるのは、本人、配偶者、4親等以内の親族等です。(親族がいない、申立てを拒否している等の事情がある場合、市町村長が公の立場で行います)申立ての際に必要な書類が大変に多くあり、作成や請求などに時間がかかるものもあります。</div><div>(※2)…ご本人の判断能力の程度により、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれます。補助→保佐→後見の順に判断能力がより困難な状態です。補助や保佐の場合、ご本人の残存能力や権利の尊重のためにも、援助者が支援できる範囲が小さくなります。</div><div>(※3)…申立ての際に、「この人に後見人になってほしい」「私が後見人になりたい」という希望は記入できますが、実際にその方が選任されるとは限りません。ご本人の財産状況などを勘案し、最終的に家庭裁判所が選任します。</div><div>(※4)成年後見人等に対しては、その請求により、報酬がご本人の財産より支払われます。金額はご本人の財産や業務内容により家庭裁判所が決定します。</div><div>(※5)一度成年後見人等が就くと、基本的にはご本人が亡くなるまで(若しくはご本人の判断能力が回復するまで)成年後見人等の業務が継続されます。元々申立てをするきっかけとなった出来事(定期預貯金の解約や不動産の売却など)の目的が達成されたとしても、成年後見人等の業務は終了しません。</div><div>その他、成年後見人等はご本人の財産管理と身上監護を目的とした法律行為を行いますが、事実行為は行うことができません(たとえば、介護におけるおむつ交換や身の回りの世話など) また、医療に関する同意権ももちません(たとえば、延命治療の有無の決定や、医療行為(手術など)への同意など)</div><div><br></div><div>法定後見制度はご本人に万が一が起こった時に、ご本人の生活や身体、財産を守るために利用できる制度です。</div><div>ご本人の判断能力が困難となり、ご本人自身では生活が立ち行かなくなった時、また、支えるご家族側の心理的、体力的なご負担を考えた時に、利用できる一つとして、概要や仕組み自体も含め、こんな制度があるんだということをまずよく知っていただくことが大切になると思います。</div><div><br></div><div>「介護が必要な状態になってから、に備える」 今回はPart②「法定後見の仕組み」をご紹介しました。</div><div>次回最終、Part③へ続きます。</div><div><br></div><div><div><br></div></div>
- ~介護が必要な状態になってから、に備える~ Part①
- 今回より3回にわたって「介護が必要な状態になってから、に備える」をテーマに書かせていただきます。<div><br><div>1回目は、「介護が必要な状態になるきっかけと必要なサポート」です。</div><div><br></div><div>「人間、最期の最期まで、自分のことは自分で」これは一番の理想であり、どなたもが望むことではないでしょうか。</div><div>自分の介護で家族に迷惑をかけたくない、自分の体のことを誰かに手伝ってもらったり見られたりするのは嫌、自分の大切な物は最期まで自分の手元に置いて自由に使いたい…</div><div>これは人として当然に願うことですし、尊厳を守るという意味でとても大切なことです。</div><div>しかし、超高齢社会、医療が目覚ましく進展し、福祉に関する制度も整備される中で、どなたかや何らかのサポートを受けなければ生活が難しい、生きていくことが難しい、つまり、「介護が必要な状態になる」ケースになることが多くあるのも現状です。</div><div>では、介護が必要な状態になるきっかけには、どんなことがあげられるでしょうか。</div><div>「きっかけ」になりうる出来事を3つあげたいと思います。</div><div>まず1つ目は、「年齢的な変化」 加齢による身体的、心理的な変化です。個人差はありますが、加齢に伴い、筋力の低下や節々の痛み、気力の低下など、生理的な変化、衰えによるケースです。</div><div>2つ目は、「身体の不自由」 病気やけがにより、自分の力や意思で行動、動作することが難しくなるケースです。</div><div>3つ目は、「頭の不自由」(※この表現に色々なご意見があるかと思いますがご容赦ください) 認知症や精神障がい、知的な障がいにより、自分の意思を伝えたり、判断することが難しくなるケースです。</div><div>この中で、皆さんにとって身近で不安に感じるものの一つが、認知症ではないでしょうか。</div><div>認知症といっても、その病態や症状、進行度は様々ですが、写真にも掲載している書籍「認知症世界の歩き方」の表現をお借りすると、認知症とは、「認知機能が働きにくくなったために生活上の問題が生じ、暮らしづらくなっている状態」です。認知機能とは、私たちが普段意識せずやっていること、やれていることになります。(たとえば道端で犬を見かけた時に、それが犬という動物だと認識したり、知らない犬だから嚙まれないように近づかないでおこうと判断・選択したり、帰宅後に、今日は道端に犬がいたなと思い出したり、その後飼い主のもとに戻れたのかなと想像したり…)</div><div>私は看護職として働く中で、認知症と診断された方にも多く接してきました。その方々に見られた症状として、「自分の気持ちや状態を上手く伝えられない(気持ちが伝わらない、分かってもらえないことで、感情的な言動や態度になる、身体の不調を訴えることができず治療が遅れてしまう)」「体内時計の乱れ(睡眠の昼夜逆転、ご飯を食べたのにも関わらず食べていないという)」「記憶をとどめることが難しくなる、思い込みや執着が強くなる(財布や通帳を失くしてはいけないと仕舞い込むが、仕舞い込んだ場所や仕舞い込んだことを忘れてしまい、誰かに盗られたに違いないと思い込む)」などがありました。</div><div>では、もし万が一皆さんの大切なご家族が認知症になったとしたら、どのようなサポートが必要になるでしょうか。</div><div>こちらも3つあげたいと思います。</div><div>まず1つ目は、ご本人の身体や生活を守るための契約や申請、手続き(介護保険制度の利用や、入院や施設入所の手続きなど)</div><div>2つ目は、ご本人の財産の管理、保全 (明らかに不要なものを買ったり、ご本人にとって不利益の大きい契約を結んでしまわないように、財布や通帳、印鑑を預かるなど)</div><div>3つ目は、お金の工面 (ご本人に介護や治療が必要な場合や、入院、施設入所となった場合、ある程度まとまったお金が必要になります)</div><div>こういったサポートが必要になるのですが、3つ目の「お金の工面」というところで、思わぬ問題が発生することがあります。</div><div><br></div><div><br></div><div>☆次回「~介護が必要な状態になってから、に備える~ Part ② 法定後見制度の仕組み」に続きます。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div> </div>
- ~ラブレターを遺しましょう~
- <div>※写真はイメージです</div><div><br></div><div>遺言とは、生前のうちに、自分の亡き後に自分の残した財産について、誰に、何を、どのように、どれだけ引き継いでもらいたいかを意思表示したものです。</div><div>遺言は、法律で定められた事項について、遺言者が亡くなってはじめてその効果を発生させることがきます。</div><div>遺言は、被相続人(故人、遺言者)の一方的でお一人での意思表示であるため、残されたご家族やご親族等に与える影響はとても大きいものになります。そのため、遺言があったからといってこれを無限に、無条件に認めてしまうと、利害関係人に混乱をもたらすことがあり、これを防ぐために、民法は遺言に関する事項を定めています。この民法で定められた遺言事項を法定遺言事項といいます。</div><div>反対に、法定外事項といって、たとえ記載されていたとしても、法的に拘束力や強制力がない事項もあります。</div><div>法定外事項にあたるのが「付言事項(ふげんじこう)」と呼ばれるものです。</div><div>付言事項とは、遺言者がどのような思い・きっかけで遺言をしたのかという心情と、自分の亡き後もご家族ご親族一同に仲良く暮らしてほしいというご希望などを記載したものです。</div><div>具体的には、遺言の動機、葬式の方法、死後の献体、家業の発展、家族の幸福の願い、家族や兄弟姉妹間で争うことなく仲良くしてほしいという願い、家訓など継承してほしいことやその方法などです。</div><div>付言事項には法的な効果はありませんが、遺言者の「想い」を相続人に伝えることができます。</div><div>亡くなってその存在がこの世からなくなり、姿がなくなってもなお、故人様の「最後の声」として受け取ることができるのです。私事ですが、この付言事項のことを「最後のラブレター」とご説明しています。</div><div>以前、公正証書遺言の作成サポートのご依頼をお受けしました。その時に付言事項の記載を提案させていただいたところ、ぜひ残したいとご希望があり、遺言者様のこれまでの人生、ご家族との思い出、この先の願いなど、丁寧にお聞かせいただき、何回も話し合いを重ね、「最後のラブレター」が完成しました。迎えた公正証書遺言作成の日、遺言者様は公証人より読み上げられた遺言を何度も大きく頷きながら聞かれ、付言事項の読み上げの際には、それまで以上に穏やかな表情で目に涙をためていらっしゃいました。若輩者ながら、この方の人生最後の意思表示に自分が行政書士として関わらせていただくことができたということに、心からの感激と感謝の気持ちでいっぱいになりました。</div><div>法的効果のある遺言の本文を、側面から「想い」の部分として支える大きな役割となりうるのが付言です。</div><div>実際に相続が発生した時の状況や相続人の心情にもよりますが、遺言者の想いが相続人に伝われば、遺言者の意思を大切にしようという気持ちが一致し、結果的に円満円滑な相続になることを期待できるかもしれません。「最後のラブレター」にはそんな温かさが宿っています。</div><div>この付言事項、あくまでも「ラブレター」です。反対に、相続人がこれを読んで気分を害したり、反発を買うような内容や表現は、ぜひ避けるべきだといえます。</div><div>「遺言」や「法律」と聞くと、どこか敷居が高く、とっつきにくいというイメージを持たれる方もいらっしゃると思います。しかし、付言事項だけではなく、法定事項も含め、遺言は「故人様からご家族様へのメッセージ」です。</div><div>ぜひ、残されるご家族のお気持ちに寄り添った内容にすることをおすすめしたいと思います。</div>