コラム
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- 「はじめまして、後見人です!」 その⑦(最終章)
- 長丁場でお話してきた「はじめまして、後見人です!」 今回が最終章になります。<div><br><div>終活に関するセミナーや座談会で「後見という言葉を聞いたことありますか」とか「後見制度ってご存知でしょうか」と質問させていただくと、おおよそ出席者の半数以上の方が「聞いたことある」「知っている」と回答されます。その上で「後見に対して、あまり良いイメージがない」「良いことを聞かない」と正直な感想も聞かれます。最近では、SNSの普及等で身近な情報がごく自然に近い形で目や耳に入ってくる機会も増えたと個人的に感じているのですが、「後見」に関する様々なニュースもよく目にします。これも個人的な意見になりますが、どちらかというと、後見に対し否定的な、そして問題視するような記事が多いと感じます。後見人による被後見人の財産の横領等犯罪になりうる出来事は絶対にあってはいけないことですし報道されるべきだと思いますが、たとえば、「後見人が勝手に被後見人の自宅の鍵を変えてしまった」「後見人が勝手に被後見人を施設に入れてしまった」等、被後見人の親族側の主張が記事になっているものも多く目にします。もちろん、この文言を見ると被後見人の親族の方の納得がいかないお気持ちも当然ですし、後見人や後見という制度そのものに対して不信や不満、怒りを覚えるのも当然だと思います。と同時に、この後見人は、被後見人やその親族の方と普段から関係を築けていたのだろうか、とも感じます。私も後見の仕事をしています。若輩者の私が偉そうな言い方をしますが、私が普段から一番気をつけていることは、「情報提供」「情報共有」「報告」「連絡」「相談」です。</div><div>これは被後見人だけではなく、その親族、そして介護福祉医療の関係者、全ての相手方に対して絶対的に必要なことだと考えています。そしてこれは本来、本人に後見の申立てが必要かもしれないと検討を始める時点ですでに行うべきものだと感じます。後見制度の内容や仕組みはもちろん、その上で、ではなぜ本人に後見人をつける必要があるのか、後見人ができること、できないこと、後見人の法的な立場や業務内容等を事前に丁寧に説明することが、後々の後見業務において、後見人自身の身を守ることにもつながります。一度抱かれた不信感は、簡単には払しょくされないですし、この積み重ねが原因で、ゆくゆくは後見人が辞職することになってしまっては本末転倒、結果困るのは被後見人である本人なのです。</div><div>あくまでも推測であり個人的な見解ですが、「自宅の鍵を変えてしまった」のは、被後見人の財産を他者から守るために必要な措置だったかもしれませんし、「施設に入所させてしまった」のは、被後見人の生活や命を守るために必要な措置だったかもしれません。その経緯や理由等がきちんと事前に説明され、後見人として然るべき判断や手続きに基づくものであれば、親族側としてももう少し違ったお気持ちでいられたのではないか、と思うのです。</div><div>私も被後見人を支援する関係者の一人から、「〇〇さん(被後見人)のお金なのに、結局は後見人の価値でしか使えないのですね」と厳しいお言葉をいただいたことがあります。その関係者の方から見て、被後見人の為のいわば必要な経費なのに、なぜ出してあげないのか、本人のお金なのになぜ出し惜しみするのか、と。もちろんその関係者の方に私を責める気持ちがあった訳ではなく、本人の生活をより良くしたい、との一心で思わず出た一言だったと思います。本人の生活をより良くしたい、それは後見人の私も全く同じ気持ちです。ただ、今ある被後見人の財産を、今後いつ終わるか分からない被後見人の人生に備えて、途切れることなく先細ることなく支出していく、これが後見人に任せられた業務である以上簡単に譲れないこともあります。親族や関係者から見れば、時に「嫌われ役」となる覚悟も持たなければと心しております。</div><div>この超高齢社会において、高齢者の方を支援するための方法の一つとして、法定後見制度があります。おひとりさまの高齢者の増加や核家族化等を要因として、法定後見制度のニーズは今後高まっていくのではないかと個人的に考えます。もし皆様の中でご家族や身近な方に後見人がついた場合や、すでに後見人がついている場合には、被後見人を支援する関係者の一人として、ぜひその業務について興味をもっていただき、ご理解・ご協力賜れましたら幸いです。</div><div><br></div><div>全7回を通して「はじめまして、後見人です!」をテーマにお話ししてまいりました。</div><div>法定後見制度は複雑な部分も多く、そしてまだまだ広く知られているとは言い切れない制度だと感じていますが、この記事を通して、皆様にとって後見人の仕事を少しでも身近に感じていただくことができましたら、とてもうれしく光栄です。</div> </div>
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- 「はじめまして、後見人です!」 その⑥
- 「はじめまして、後見人です!」 その⑥<div><br><div>今回は後見人の実際の業務についてのお話です。</div><div>さて、申立てを経て家庭裁判所より後見開始の審判が下りると、後見人に「あなたが後見人に選任されましたよ」という通知、「審判書」が届きます。ただ、この時点ではまだ審判が下りたことのお知らせであり、実際にこの審判が確定するまでには、2週間の不服申し立て期間(即時抗告)が設けられています。この期間内に家庭裁判所より何らかの連絡がなければ「審判確定」となり、後見人はようやく後見業務に着手できます。先にご説明した通り、後見人の業務は、被後見人の「身上監護」と「財産管理」です。意思・判断能力を欠いた被後見人を代理して法律行為を行います。実際の業務として、被後見人の預貯金の管理や、介護や医療サービスを受けるための申し込みや契約、かかる費用の支払いなどが挙げられます。</div><div>後見人の業務はあくまでも法律行為です。したがって被後見人の身の回りのお世話(直接的な介護)等の事実行為や、養子縁組、婚姻や離婚届の提出といった身分行為は行えません。また、実際の後見業務において大きなポイントになるのが、後見人には医療に関する同意権がないということです。具体的には、被後見人の手術等の医療行為への同意はできませんし、延命措置の中止や拒否を選択・判断することもできません。他にも、保証人や身元引受人になることもできませんし、被後見人と後見人との間で利益が相反する行為(たとえば、後見人がお金を借りる際に被後見人名義の不動産を担保にする)も禁止されています。</div><div>こうして挙げてみると、被後見人に対し後見人ができることはごくごく限られているように感じられる方もいらっしゃるのではないかと思います。実際に「後見人がついたところで何をしてもらえるの?」「後見人に何ができるの?」と直球の質問をいただくこともあります。事実行為という面では、被後見人に必要な介護・医療サービスを提供できるようケアマネや福祉関係者に報告・連携・相談し、要介護認定の申請や介護サービスの申し込み、契約、必要な支払いを行う、</div><div>医療に関しては、被後見人の親族と連絡をとり相談する、主治医や医療関係者と連携する、場合によっては身元保証会社の利用を検討し申し込む、等。また、後見人の義務として、家庭裁判所への定期的な報告も行います。原則として年に一度、被後見人の生活の状況や、支出や収入、財産の状況等をまとめ、報告書として提出します。他にも、たとえば大きな財産の処分(不動産の売却等)を検討する際には家庭裁判所に許可を得る必要がありますし、多額の臨時の収入や支出があった場合も連絡する必要があります。</div><div>個人的には、後見人は、被後見人に必要な支援を受けていただくための橋渡しのような立場ではないかと感じています。</div><div>法律上では後見人の業務は大枠として決められていても、被後見人の置かれている状況や環境、送っている生活はそれぞれで、日々の生活時々で起こる課題や問題もそれぞれです。すべてにおいて法律で、「こういう場合はこうしなさい」「ああいう場合はああしなさい」と事細かに決められてはいません。つまり、「何が起こるか分からない」現実に具体的に備える、実際に起こった時に迅速に対処する、そのためにも、被後見人を取り巻く関係者が一丸となる必要があるとつくづく感じております。</div><div><br></div><div>今回は後見人の実際の業務についてのお話でした。次回は「はじめまして、後見人です!その⑦最終章~被後見人をより良く支援するために~まとめ」になります。</div> </div>
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- 「はじめまして、後見人です!」 その⑤
- 今回は、テーマ「はじめまして、後見人です! その⑤ 後見人には誰がなる?」です。<div><br><div>前回までのお話で、申立までの流れや必要事項などをご説明しました。</div><div>それでは実際に「後見人」とよばれる人には誰が選任されるのでしょうか。</div><div>先のお話でも書いた通り、後見人には非常に重要な権限があります。後見人は被後見人(後見を受ける方)に必要なあらゆる法律行為を代理人として行い、また、被後見人が行った法律行為(日用品の購入その他日常生活に関する行為をのぞく)を取り消すことも可能です(民法9条、120条1項)この権限のもとで、意思能力・判断能力を欠く状況にある方の生活や人生(身上監護)、財産(財産管理)を守る必要があります。ですので、後見人は誰でもよいというわけにはいかず、家庭裁判所によって選任されます(民法843条1項)。逆にいえば、「この人に後見人になってほしい」「私が後見人になりたい」と希望し、申立ての際に「候補者」として挙げても、家庭裁判所がその通りに選任しない可能性もあるということです(民法843条4項)。</div><div>実はこの点は、この法定後見制度が使い勝手が良くないと言われる理由の一つになっていると個人的に考えています。のちに被後見人となる方のご親族等からすると、選任された後見人が全く面識のない相手だったとすると、「思いもよらない人に(被後見人の)財産を取り上げられてしまった」「自分たちがいるのに、何もやらせてもらえない」などという不信感を持たれるケースも少なくないのです。特に申立人となった方が、自らを後見人候補者として申立てを行った場合に、自分ではなく全く知らない人が後見人に選任されたとするとどうでしょうか。自分が後見をやれないことに加え、どこの誰だか知らない人に被後見人の財産を預けなければならないとなると、かなりの心理的負担が生じるのではないかと思います。選任された後見人が気に入らないからという理由では、後見の申立てを取り下げることはできません。そもそもご本人(被後見人)が意思能力・判断能力を欠く常況であることを理由に後見人が必要である、と申立てがされているので、家庭裁判所が後見人が必要と判断したのであれば、取り下げはできないのです。</div><div>(ただ、選任された後見人に後見業務において不正行為があった場合等には親族等からの請求や家庭裁判所の職権により後見人が解任される可能性もありますし(民法846条)、後見人側の事由により家庭裁判所の許可を得て自ら辞任することも可能(民法844条)です)後見開始の審判が下ると、基本的には被後見人が亡くなるまでの間、半永久的に後見人が就き続けることになります。つまり、申立のきっかけとなるような出来事がたとえ解決、終了したとしても(たとえば不動産の売却や預貯金の解約等)、後見人による後見業務は継続します。</div><div>私も行政書士で組織するコスモス後見サポートセンターの会員として後見業務にあたっており、案件によっては申立ての段階からご本人やそのご家族、介護福祉関係者の方と接する場面も多いのですが、申立ての際に、候補者として名前を挙げていただくことはできても、実際に選ぶのは家庭裁判所になります、と丁寧にご説明させていただいております。また、実際に選任されたとしても、後見開始の審判が確定がされるまでは、業務を開始できない旨も重ねてご説明しております。</div><div>しかし、「どこの誰が後見人になるか分からない」と聞くと、そもそもこの制度を使うということに消極的になられる方も多い印象です。後見人による被後見人の財産の横領等の不正行為も社会問題として取り上げられることもある中で、後見人と被後見人との間、また、後見人と被後見人を取り巻く関係者の間、で信頼関係を構築していくか、がとても大きな課題になると考えます。</div><div><br></div><div>今回は後見人には誰がなる?のお話でした。次回は後見業務の実際についてのお話になります。</div> </div>
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- 「はじめまして、後見人です!」 その④
- 今回は後見申立てにの際に大きなポイントとなる二つ目、「申立人」についてです。<div>前回の例を引き続き使い説明していきます。</div><div>Aさんの身上監護と財産管理のため、法的な代理人である後見人をつけるとなった場合、家庭裁判所に後見申立てをする必要があります。この「申立てをする人」、つまり申立人は誰が担うのか、がポイントになります。</div><div>申立ては、誰もができるわけではありません。例えばAさんの友人や近隣の方が、「Aさんには後見人が必要だから!」と自らAさんの為に一肌脱ごうと考えても、民法に照らすとそれはできません。「民法7条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、…の請求により、後見開始の審判をすることができる」(一部を抜粋)と定められています。つまり、Aさんの配偶者か、四親等内の親族、またはAさん自身が申立人となる必要があります。Aさんの場合、四親等以内の親族にあたる、妹さんやそのお子様がいらっしゃいますので、この方々のご協力があれば、民法上申立人になることはできます。しかし、後見の申立ての為の準備は1日2日でできるものでは到底ないのが現状です。まず申立てに必要な書類を揃えるところから始まりますが、前回説明した医師の診断書は絶対ですし、その他に、申立書や申立事情説明書、財産目録、収支予定表などの書類作成が必要で、これらの書類の根拠となるような公的な書類(例えば、戸籍謄本や住民票、不動産登記事項証明、通帳のコピー等)を関係機関に請求する必要もあります。私は一度、私の父親の為にもし申立てをするとしたら、という前提で書類を作ってみたのですが、その膨大な量に心が折れそうになりました。また、自分の父親のことはたいてい分かっているから大丈夫と軽い気持ちで書き始めたのですが、学歴や職歴など過去の細かい経歴にまで触れる必要があり、また父の財産の内容や普段の生活における収支なども把握しきれておらず、これを申立人一人でこなすことは無理だと感じました。そして申立ての為には決められた手数料を支払う必要もあり、お金がかかります。前後しますが、申立ての為の書類作成や申立ての手続き自体を専門家に依頼すると数十万円の報酬もかかってきます。申立の際に、これらの費用をAさんの財産から支出することを請求する旨を付記することはできますが、申立人の心理的、物質的な負担はやはり大きくなります。</div><div>また例えばAさんに親族がいたとしても、様々な事情からAさんとの関りを拒まれ、申立人にはなりたくないという方もいらっしゃるかもしれません。では、Aさんに四親等以内の親族がいない場合はどうなるのでしょうか。実は申立ての中には、「首長申立て」というものもあります。これは本人の居住する市町村長が公の立場で申立人となるものです。市町村ごとに首長申立ての対象になるかの条件は異なりますが、実は令和5年度の申立のうちの約23%がこの首長申立て案件になっています。要因は様々考えられますが、おひとりさまの高齢者の増加、親族関係の希薄化などが挙げられます。</div><div>本人の身上監護、財産管理の為に後見申立てが必要となった場合、申立人が必ず必要となりますが、その役目を誰が担うのか、は大きなポイントです。</div><div><br></div><div>今回は前回に続き、後見の申立てから選任までのうち、「申立におけるポイント」のお話でした。</div><div>次回は、「はじめまして、後見人です! その⑤ 後見人には誰がなる?」のお話です。</div><div><br></div>
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- 「はじめまして、後見人です!」 その③
- 今回は、後見の申立てから選任まで~後見申立てのポイント~を説明したいと思います。<div>分かりやすく、「認知症を患い、おひとり暮らしが困難となった高齢者のAさん」を例にあげてご説明します。<span style="text-decoration:underline"></span><div>Aさんは長年ご自宅にておひとり暮らしをされてきましたが、今回友人の一人からご様子がおかしいと行政に情報が寄せられ、調査の結果、認知症様の症状がかなり進行しており、すぐにでも公的な介護福祉支援を受けることが望ましく、また、自宅を含めた不動産や預貯金といった財産の管理も必要であることされました。Aさんには結婚歴がなく、お子様もおらず、妹さん(以下Bさん)がいらっしゃいますが遠方に住んでおり、Bさん自身も高齢で家族からの介護を受けており、すでにAさんのお世話をすることが困難な状況、Bさんにはお子様がいらっしゃいますが、とてもAさんの介護まで担うことはできないとの回答でした。こうなると、Aさんの身上監護、財産管理をAさんやAさんの家族親族に代わって行う後見人の申立てをすることを検討する必要が出てきます。</div><div><br></div><div>申立てをするのにまず必要になり、かつ大きなポイントになるのが、</div><div>1「医師の診断書」と、2「申立人」です。</div><div><br></div><div>今回は1について。</div><div>後見の申立てに必要になる書類は膨大にあります。申立書の書式は決まっていますが、それに添付する書類も官公署に請求したり、自ら作成したりする必要になります。その添付書類の中で、絶対に外せないのが、「診断書」です。逆にいうと、この診断書がなければ、申立てはできません。(家庭裁判所に受理されません)</div><div>ではこの診断書を書くのは誰か?当然「医師」になるのですが、このAさんの場合、「認知症であることが原因によって意思能力や判断能力を欠いている」という診断がされる必要があります。医師は精神科や神経内科など頭や心を専門にする医師でなくても構いません。最初に相談すべきは、やはりかかりつけ医です。しかし、ここで時々思わぬ壁にぶつかることがあります。あくまでも私の経験ですが、医師に診断書を依頼したが、「(診断書を)書けないと言われてしまった」という相談を受けることが時々あるのです。「うちは内科だから認知症かどうかの診断はできない」「検査ができないから」という実質的な理由なこともあれば、「この人は後見をつけるような重度の認知症ではないから」という判断や診断に基づく理由をあげられることもあります。私も長年医療の現場で働いてきましたが、後見申立てに関する診断書に限らず、医師が診断書を書く、ということは、大きな判断と責任をともなうことになります。私が以前に働いていた医療機関の院長は「診断書は医師の「全て」を込めて書くもの」と仰っていました。専門知識をもって書いた1枚で、その患者さんの権利や義務が確定し、生活や人生を変えることもある、だから真実しか書けない、と。先ほども触れた通り、家庭裁判所は、Aさんに後見が必要かどうかまず医師の診断書を参考にします。申立てを経て後見人がついた場合、後見人には大変大きな権限や裁量が認められ、たとえAさんの家族や親族でも、後見人を無視してAさんの身上監護や財産管理を行うことはできません。そうなると、ケースによっては、最初に診断書を書いた医師が家族や親族から思わぬバッシングを受けることにもなりかねないのです。(そんなことがあってはいけないと個人的には思うのですが)</div><div>医師の診断書を用意することは、申立には絶対条件になりますが、様々な事情、状況から、書いてもらえない、または書いてもらえる医師がいない、という壁にぶつかることもあるのが現状です。</div><div><br></div><div>今回は後見申立て時のポイントとして、「医師の診断書」をあげました。次回は申立て時のポイント、2申立人にフォーカスしたいと思います。</div></div>
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- 「はじめまして、後見人です!」 その②
- <div>前回に続き、後見制度をテーマとしたお話の続きです。</div><div>そもそも「後見」って何でしょうか。「後見」を百科事典で調べてみると、「背後にひかえて世話をすること、うしろだて」とあります。では、民法でいう後見は、どんな方に対して行うものでしょうか。ここからは皆さんにイメージしていただきながらお話をすすめたいと思います。もし認知症が理由で介護が必要な状態になった時、症状や状況にもよりますが、衣食住において、どなたかからの何らかのサポートが必要になります。たとえば家族と一緒に住んでいる場合、家族がその担い手になるケースもありますが、家族だけで介護の全てを負担することは、現実的に困難なことも出てきます。そんな時使える・備える制度として介護保険制度があり、介護度に応じて様々なサービスを受けることができます。では実際に介護サービスを受けるために必要な手続きや費用の支払いは、どなたが行うことになるでしょうか。皆さんの中で、真っ先に思い浮かぶ方はいらっしゃいますか。息子さんや娘さん、お嫁さんやお孫さんなど、家族や近しい親族が動いてくれるという方もいらっしゃると思います。しかし、結婚歴がなく、お子さんもいない、兄弟姉妹がいるが高齢ですでに頼れる状態ではない、中には様々な事情から、近くに家族や親族がいても頼れない、連絡もとれない、という方もいらっしゃるのも現実です。ではそのような状況にある方が、誰からの何の支援も受けず、生活を続けていくとしたらいかがでしょうか。これは実際にあった例なのですが、おひとり暮らしの高齢の方のご近所さんから行政へ、「最近様子がおかしい、話の辻褄が合わない、身なりが乱れている、自宅に不特定多数の人が出入りしている」等の情報提供があり、自宅訪問したところ、認知症がかなり進行した状態で、食事や保清もできておらず、また、不当に高額な代金で不要な自宅内のリフォームといった契約をさせられ預貯金をだまし取られている被害に遭っていた、ということが判明しました。認知症という病気は進行度や症状も様々ですが、ある程度進行すると、意思能力や判断能力が衰え、通常認知症ではない方が普段何気なくやれている、やっている判断や選択が正しくできなくなります。この例の方のように、自分の身の回りのことをすることが困難になったり、お金や貴重品など生きていくために必要な財産の管理も困難になったりします。では、この方が必要な支援を受けるにはどうしたらいいでしょうか。先に書いた通り、介護サービスを受けるためには様々な手続きが必要になり、また費用の支払いも必要です。しかし、この方のようにそれを担う家族や親族がいない場合は、第三者が行うことになりますが、契約や申し込み、お金の管理や支払いといった法律行為を行うことは責任がともないますし、お金が絡めば思わぬトラブルに陥ることもあるかもしれません。そこで、必要になるのが法的な代理人である、「後見人」です。つまり、後見人は、意思能力や判断能力が不十分な方や欠いている方の、身上監護と財産管理を目的として法律行為を行う権限を与えられた代理人ということになります。<br></div><div>よく「後見人って何するの?」とか、「なんで後見人が要るの?」と聞かれることがあります。後見人が必要になるケースは様々ですが、意思能力や判断能力に困難が生じている方に必要な身上監護と財産管理が後見人の業務となります。</div><div><br></div><div>今回は後見人が必要になるケースと後見人の業務についてのお話でした。</div><div>次回は、「はじめまして、後見人です! その③ 後見人が選任されるまで(申立てから審判確定まで)」のお話になります。</div>
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- 「はじめまして、後見人です!」 その①
- 私事ではありますが、今年3月に、行政書士で構成する団体である「コスモス成年後見サポートセンター」に入会いたしました。この団体は、成年後見実務についての研修を通じ会員の資質向上に努め、業務管理等を通じて会員の指導・監督を行う組織で、後見業務を行うのにあたり定期的に業務報告をしたり、コスモスが開催する研修会や相談会に参加したりなど、コスモス会員は団体(以下、「コスモス」と呼びます)のもとで日々後見業務にあたっています。<div>皆さん、「後見制度」や「後見人」という言葉をお聞きになったことはありますか? セミナーや座談会でこの質問をすると、ほとんどの方から「何となく聞いたことはある」というお返事があります。もう少し深く、「では実際に、後見人と呼ばれる人とに会ったことがある、後見人がついているという人が身近にいる、という方はいらっしゃいますか?」と伺うと、今のところそのような方がいらっしゃったことはありません。後見という制度があることは何となく知っている、聞いたことはあるけれど、実際にどんな仕組みなのか、後見人とはどんな人なのかまでは分からない、知らない、という方は少なくないのではないでしょうか。私は前職が医療関係ということもあり、看護・介護・福祉関係の知人・友人も多いのですが、その知人・友人に聞いても、「詳しくは分からない」と言われることが多いです。実際に私も長年現場で働いてきましたが、「今思うと、あの患者さんに時々面会に来ていたのは、ひょっとして後見人…だったのかな」と思い出せる方が一人いる程度です。それくらい、医療や介護福祉の現場で働く人にとっても、なかなか馴染みがないのが現状です。この後見制度に関する法律は、実は今から20年以上も前の2000年に施行されています。この時同時に施行されたのが「介護保険法」であり、この二つの制度は「車の両輪」と呼ばれています。しかし、現在の介護に関する制度とともに発足したのにも関わらず、介護に関する知識や情報の広がりよりも、後見に関する知識や情報の広がりは遅れをとっていることを、個人的ではありますが、実感しています。そして、この知識や情報の少なさが、巡り巡って、後見制度を使った支援を必要とする方、つまり、被後見人の支援の遅れにつながるのではないか、と考えます。では、なぜ後見制度はなかなか周知されないのか? これはあくまでも私の意見なのですが、「知るきっかけ・機会がない」ことが一番大きな原因ではないかと考えます。今後の記事でもう少し掘り下げてお話していきますが、いうまでもなく、超高齢社会にある今の日本で、介護が必要な方の割合も増加しています。 そして、法定後見の申立て件数は年々増加傾向にあります。しかし、そんな状況の中で、介護を担う医療・介護福祉に携わる人手は、圧倒的に不足しています。「常に人手不足」「求人をかけても応募がない」という話も日常的に耳にします。そんな日々の業務をこなす、回すだけで手いっぱいの中で、医療や介護に関する法律や仕組みを学ぼうと思っても、時間がない、余裕がない、というのが、現状なのです。(私も実際に、いくつかの高齢者施設様に、後見についての座談会をやらせてくださいとお願いにあがったのですが、「これからニーズが高まる制度でしょうし、必要なことだとは思うのですが、なにぶん時間的にも人員的にも余裕がなくて…」と丁重にお断りされることがほとんどです。) </div><div>現在コスモス会員として後見業務にあたっていますが、「後見制度を知っていただく」ことも必要な業務の一つだと考えています。制度自体が複雑な部分も多く、とっつきにくいのですが、少しでも分かりやすく、身近な制度の一つとしてとらえていただけるよう、このシリーズで順にお話していきたいと思います。</div><div><br></div><div>次回「はじめまして、後見人です! その②」に続きます。</div>
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- 「終活」って何すること? ~ その④ 実はこんな現実が。介護が必要な状態になった時に備える ~
- ※写真と本文の内容とは、関連ございません。<div><br></div><div>これまで3回にわたり「終活」って何すること?をテーマに書かせていただきました。今回はその④、最終章になります。</div><div>その①でご説明した通り、分かりやすく順に時間と状況を巻き戻してお話してきましたので、今回は、「今この瞬間に最も近い時間帯の終活」ということになります。人生100年時代、医療や福祉の技術が進み、日本人の平均寿命も男女ともに80才を超えています。「人間、死ぬが死ぬまで、自分のことは自分で。誰にも迷惑かけたくない」というのは一番の理想であり、どなたもが望むことです。しかし、実際はそうではないことも多いのが現実です。「誰かの世話にならなければならない」状態になる原因やリスクは、年齢を重ねるほど高くなります。病気やけがによる体の不自由ももちろんですが、皆様にとって一番身近で一番心配なのは、「頭の不自由」、中でも認知症ではないでしょうか。認知症と一口で言っても、実は種類があり症状も色々ですが、認知症が一定の度合いで進行した場合、日常生活の中で様々な問題や課題が出てきます。実例を挙げてみると、「不要な物を不当に高額な値段で売りつけられても、それが良いか悪いか判断できず、言われるがまま契約してしまう」「清潔を保つ行為(入浴や着替えなど)ができない」「近所を徘徊し、交通事故に遭ってしまった」など、大切な財産を失ったり、命や生活が危険にさらされることにつながります。この実例を踏まえるともし万が一皆様の近しいご家族が認知症になった場合、どのような支援や援助が必要になるでしょうか。まずはその方に適切な介護や医療を受けさせるための契約や申請を代わりに行なうことが必要です。そして、介護を受けさせるには現実的にお金もかかるのでお金の工面が必要です。しかし、このお金の工面という点で、実は思わぬ現実が待ち受けています。たとえば、実の息子さんや娘さんが、「認知症の母を施設に入れるのに、母の名義の銀行の預貯金から支出しよう」「父が認知症になり今は施設にいるから、空き家になった実家をこれを機に売却しよう」と銀行や不動産業者に出向いたとしても、「はい、やりますよ」とはなりません。まずは「本人さんでないと手続きできません」と言われますし、「銀行に「本人は認知症だ」と伝えた途端、口座を凍結されてしまった」という話も聞きます。子供さんからすれば、「自分の親のことなのに、どうして実の子の自分ではダメなんだ」と納得できないと感じますし、死活問題になりかねません。銀行や不動産業者は融通がきかない!と言いたくもなりますが、実は銀行や不動産業者も決して嫌がらせをしているわけではなく、必要な措置をとっているのです。いくら実の子供だからといっても、それだけで口座の解約や払い出し、不動産の売却(いわゆる財産の処分)を無限に認めてしまうと、他の親族や推定相続人(その本人が亡くなった場合に相続人になりうる人)とトラブルになることも考えられます。他にも、その処分によって得られた財産の使い込みや横領といった犯罪も起こりえますし、不動産の売却により本人の居住する場所や権利を奪うことになっては、取り返しがつきません。認知症だからこそ、むしろその本人の財産がしっかりと保全するされる必要があるのです。</div><div>ではそうなってしまった時の方法は?そうならないために事前に備える終活は?というと、使える制度の一つとして、後見制度があります。後見についてはこれまでのコラムでもご説明していますので、そちらを参考にしていただければと思います</div><div>「実の親子関係であるというだけでは、認知症の親の財産を処分できないという現実がある」 今回の「終活って何すること? その④」の中で一番お伝えしたいのは、 ここです。「子供と同居しているから、何とかしてくれるだろう」「親の介護?何とかなるだろう」というお話を聞くことがあります。何とかなる、何とかするのが一番ですが、将来のことは誰にも分かりません。歳を重ねれば重ねるほど、「いつかの将来」は確実に「今現在」に近づいていきます。</div><div>この現実をあらかじめ知っておいていただくことで、「では今のうちにやっておくべきことは何か?」につながるのではないか、と考えます。</div><div><br></div><div>4回にわたり、「終活って何すること?」をテーマにお話をさせていただきました。</div><div>まずは正しい知識をもつこと、それが終活を考えるきっかけになり、さらに形にすることで、結果的にご自分の意思とご家族を守ることにつながります。</div><div>正しい情報を正しく知るためにも、ぜひ私達専門家をご活用ください。</div>
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- 「終活」って何すること? ~その③ ご自分の命の瀬戸際に、どこまでの治療を望まれますか?~
- ※写真と本文の内容は関連ございません。<div><br></div><div>今回は、「終活」って何すること? その③、「命の瀬戸際に受ける医療について」のお話です。</div><div>このテーマは、私が看護職として長年医療機関や高齢者施設で従事してきた中で、「終活の中で最も大切なものではないか」と考えるものです。当HPのコラム「リビングウィル、尊厳死」の中でも、何度か取り上げてまいりましたので、ここでは、「尊厳死」や「延命措置」についての詳細な説明は割愛させていただき、私が実際に経験した出来事をお話したいと思います。</div><div>看護職に就いて間もない頃、当時勤めていた医療機関に当時40代だった方が入院されていました。</div><div>この入院患者様は突然の脳の病に倒れ、一時危険な状態に陥られましたが、懸命な治療を受けられ、一命を取り留められました。しかし、重い後遺症が残り、ご自分で口から食事をとることができず、胃に直接栄養を送る「胃ろう」を造設し、一日に3回の必要な栄養をとられている状態でした。目は開けていて今にもお喋りできそうな表情はされているものの、声を発することはできず、ご自分で寝返りをうつこともできない、寝たきりの全介助のご状態でした。</div><div>この患者様には、70代の親御様がおられ、毎日のようにご夫婦そろってお見舞いに来られていました。「今日もいい顔してるね」「今日は○○(患者様のお名前)の好きな歌手の歌のCD持ってきたよ」「髪を整えようね」と、返事はなくともごく自然に話しかけられる姿に、私自身の両親の姿が重なり、現場で働くプロとして失格かもしれませんが、幾度となく涙がこぼれそうになりました。そんな様子が続いたある日のこと、ちょうどこの日担当だった私がケアに入った際に親御様からこんなことを言われました。「こうやって毎日この子の顔見られるのはうれしいけれど、自分たちも歳をとり、いつまで面倒を見てやれるか分かりません。この状態がいつまで続くのか、不安です。生きててくれるだけでいい、だけど、この子は今苦しんでいるかもしれないですね、そうではないですか?」私は返す言葉がなく、ただ曖昧な笑顔で聞くことしかできませんでした。親御様は私たちがケアに入る度に、「すみません」「ありがとう」と毎回仰ってくださいました。しかし、一般的・世間的に「大人」と言われる年齢にある自分たちの子供が、自ら動くことも話すこともできず、食事や排せつのケアを他の誰かから受けている、その姿を見ることは、辛く悲しいことだったかもしれないと、今更ながら思うのです。そして、「本人もそれを望んでいるのか、本当は苦しく辛いのではないか」と思い悩む気持ちになることもごく自然な感情だと思うのです。</div><div>今、医療を受ける患者の権利を守るべく、様々な提言がされています。自らの権利を知り、選択、判断ができるのであれば、ご自身にとって納得のいく医療を受けることにつながるのではないかと考えます。</div><div>しかし、この患者様のケースのように、ある日突然に命の瀬戸際に立たされ、自身の受ける医療に選択や判断をする余地のない状況に陥る現実があることも確かです。その選択や判断を、本人に代わってご家族が迫られた時、ご家族の心理的・精神的負担はどうしても大きくなります。</div><div><br></div><div>「もしもご自身やご家族が命の瀬戸際に立たされた時、どこまでの、どんな治療を望まれますか?」<br></div><div>リビングウィルや尊厳死をテーマとしたお話をさせていただくとき、私はまずこの質問をさせていただきます。「返事に困る」「すぐ答えられない」「考えたくない」などのお答えがほとんどですが、お話の終了後には、「考えなきゃいかんね」「ちょっと家族とも話してみるわ」と仰ってくださる方も多くいます。</div><div>命の重さ、尊さが分かるからこそ、 すぐに答えが出せるものではない質問です。(質問をさせていただく側としても、とても緊張します) しかし、万が一の備え、「終活」の一つとして、ぜひ思いを馳せていただきたいと思います。</div><div><br></div><div>次回は「終活」って何すること? の最終話、~その④ 実はこんな現実が。介護が必要な状態になった時に備える~がテーマです。 </div>